社会・地域貢献

野球検診のすゝめ琴浦義浩

野球選手のための検診活動が全国で行われています。われわれは2008年から,医師,理学療法士,トレーナー,看護師,検査技師で構成する医科学サポートチームを組織し,検診を含めた選手サポート活動を開始しました(現NPO法人京都運動器障害予防研究会)。検診対象は,京都府内の小学生,中学生,高校生野球選手です。その内容は,肘肩の可動域制限や圧痛などを調べる理学検査や超音波検査,そしてコンディショニング方法の指導やセルフチェック方法の紹介です。会場にはポスターを掲示し,また投球障害や検診の意義を解説したリーフレットを配布して,啓発に努めています。

そして,肘では主に上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(Osteochondritis dissecans; OCD)や肘関節後方インピンジメント,肘頭疲労骨折を,肩では上腕骨近位骨端線離開や関節内インピンジメントを二次検診の対象としています。その場で担当の医師が,障害や予測される今後の治療スケジュールについて,選手本人だけでなく,指導者や保護者に直接説明しています。また紹介状の作成など,スムーズに病院を受診できるように配慮しています。検診活動は主に秋から冬にかけてのオフシーズンに行っています.その理由のひとつは,選手が集まりやすいこと,もうひとつは,二次検診対象となっても,障害によっては春季大会には十分間に合うからです。

小学生,中学生,高校生のOCD
2008年から2012年にかけて,京都府内では小中高学生3310選手(平均年齢13.6歳)が検診に参加しました。高校生では874名中39名(4.5%)、中学生では1703名中45名(2.6%)、小学生では733名中17名(2.3%)に超音波において上腕骨小頭部の不整像を認めました。そのうち二次検診を受診した中高生70名中70名(100%)をX線検査でOCDと診断しました。また二次検診を受診した小学生17名中11名(64.7%)をOCDと診断しました。OCDの病期について,小学生では初期が多く,また中高生では進行期,自然修復状態と考えられる遺残期と術後の選手が多い結果でした。

◇検診の今後
主にOCDを対象とした検診の意義は,早期発見することによって,保存療法により治癒する可能性が高いこと,また進行していても適切な時期に,必要な手術を行うことにより目標とする大会を選手として全うすることができることにあります。さらに京都府北部では,有意な差ではありませんが,年を追うごとに障害を持つ選手数が減少傾向にあることを確認しており,検診活動が障害の早期発見,早期治療に繋がるだけでなく,その予防にも影響していることが分かってきています。これからも多くの方のご支援,ご参加とともに継続していくことが大切だと考えています。

最後になりましたが,このような活動を支えて頂いております高橋教授をはじめとする教室と同門の先生,コメディカルの皆様に深謝申し上げます。

医科学サポートチーム

超音波検査ブース 若手の先生が積極的に参加してくれています

丹後検診で足の検診を担当する生駒和也先生

理学検査ブース(中央:検診活動の中心,木田圭重先生)

高校野球の医科学サポート木田圭重

夏の高校野球甲子園大会は全国の高校球児の夢の舞台です。彼らは、その舞台を目指して日々練習に励んでいます。なかには、外傷や障害のために、先生方の外来を受診する選手も多いのではないでしょうか。

京都医科学サポートのロゴマーク

京都府の高校球児をメディカルの側面からサポートするために、2008年に京都府高校野球連盟の依頼により医師・理学療法士・スポーツトレーナー・看護師・検査技師で構成される、京都医科学サポートチームが結成されました。野球経験の有無を問わず、スポーツが好きなメンバーが集まりました。活動の中心は大会のサポートで、高校野球の公式戦が行われる春季・夏季・秋季大会の試合会場で医務室から試合を見守ります。試合中の外傷および熱中症対応はもちろん、登板投手の試合後のメディカルチェックを行い、アイシングを実施するなど症状に応じた対応をアドバイスしています。

年度ごとの夏季大会の熱中症対応件数は近年増加傾向です。
なかでも熱中症は生命の危機に直結するため、その対応は重要です。対象は選手だけでなく、審判、開会式のプラカードを持つ女子生徒、応援のブラスバンドの生徒などフィールド内外に渡り、スタンドまで出向くこともありました。近年の猛暑の影響でサポートチームの熱中症対応件数は増加傾向にあり、各球場(わかさスタジアム・太陽が丘球場・綾部球場など)には製氷機の設置や、大型扇風機の導入など対応が進んでいます。記録的な猛暑が続いた2018年の準々決勝では、猛暑対策として、午後7時1分開始という異例のナイター開催となりメディアにも取り上げられました。

その他の役割として、肩肘検診の活動があります。今までは甲子園出場が決まった高校の投手は大会前検診として甲子園球場内のX線検査装置を用いて肩肘の検査が行われていました。2017年からは各都道府県で代表選手の肩肘検診を行い、その結果を甲子園に持参するシステムに変更になりました。京都府の代表校の投手については、日本高野連の依頼により、われわれの施設で対応しています。また、毎年11月には京都府下の高校球児のうち、痛みなどの症状があるのに整形外科を受診していない生徒を中心にメディカルチェックを実施しています。

筆者:高校3年生時 西京極球場にて

こうした様々な事態に対応するため、スタッフは救急救命講習を受講したり、全体研修会を行ったりと事前準備をして参加しています。
2020年は新型コロナウイルスの影響でセンバツ甲子園大会が中止となり、京都でも春季大会が中止になり、夏季大会も完全に中止になりそうな状況でした。しかし、なんとか高校球児のために大会開催を実現してあげたいという連盟の努力と新型コロナウイルスの流行が落ち着いたことから、夏の甲子園大会は中止となったものの、土俵際で京都府では独自大会を開催できる運びとなりました。
京都医科学サポートとしても、新型コロナウイルスの影響で数ヶ月に渡って運動が出来なかった生徒たちへの安全なスポーツ再開方法やスポーツ強度の目安について、熱中症対策として食事や給水の具体的方法についてなどを全加盟校にメールで情報配信しました。また、スタッフへの研修を今年はZOOM(オンラインミーティングアプリ)を用いて開催して現在鋭意準備を進めているところです。

スポーツ整形外科はわれわれの診療分野の中でも重要な分野の一つです。クリニックや病院での診療に加えて、スポーツ現場での選手の支援を今後も続けて行ければと考えています。最後になりましたが、こうした活動は、NPO法人京都運動器障害予防研究会(理事長:立入克敏先生,副理事長:北条達也先生、森原徹先生、生駒和也先生) を中心として、教室および同門の先生のご支援,ご参加のおかげで10年以上継続出来ております。皆様には深謝申し上げますとともに、今後ともご協力のほど、宜しくお願い申し上げます。

ご寄付のお願い

NPO法人京都運動器障害予防研究会は「認定NPO法人」に認定されており、寄付をしていただいた支援者の方は税制優遇を受けることができます。認定NPO法人として活動をしていくためには、社会に貢献する活動を行うだけでなく、年間平均100人以上の支援者の皆様から3,000円以上のご寄付をいただくことが、必要となります。安定したNPO運営基盤に基づく活動・社会貢献の拡大をめざして、皆様にご寄付をお願い申し上げます。
ご寄付の方法は、法人のホームページ(https://spold.jimdofree.com/)をご参照ください。