はじめに
2021年1月から新たに難治・病的骨折を対象として外傷班を立ち上げました。
一般的な骨折の治療は,最近の技術進歩により治療成績が安定してきているため,適切な治療を受ければ多くは数ヶ月〜半年ぐらいで治癒します。しかし,受傷時の状況や患者さん自身の既往症や病状によっては,変形治癒や偽関節,骨髄炎などと難治性となることもあります。
さらに急性期の外傷において高度に粉砕した関節内骨折や骨盤外傷は,高い専門性と知識を必要とする外傷のひとつでもあります。
また,癌が骨転移を来すと癌細胞により骨強度が低下し,病的骨折を来すことがあります.病的骨折を来すと元疾患の治療が遅れたり,抗がん剤治療が不可能となったりすることもあり,集学的な治療を要します。
当クリニックではそういった難治骨折や骨転移による病的骨折、切迫骨折の患者を対象として治療に取り組んでいきます。
代表的疾患
急性期の高難度外傷
骨盤輪骨折(脆弱性含む),寛骨臼骨折,関節近傍の粉砕骨折、開放骨折など
高エネルギー外傷による骨盤輪骨折や四肢開放骨折,関節近傍の粉砕骨折などはdamage control surgery (orthopaedics)という概念で全身状態安定化もしくは局所の軟部組織保護の目的で一時的創外固定骨折治療術を行い,その後二期的もしくは複数回の手術治療を行うことがあります。また,寛骨臼骨折については専門的な知識や技術をもって治療しなければ,変形性股関節症に至り,患者さんの股関節機能予後が不良となることがあります.こういった急性期の高難度の外傷については,近隣の関連病院の医師と連携して治療にあたることもあります。
偽関節・変形治癒・骨髄炎
開放骨折や粉砕骨折など受傷時から治療が難しい骨折の場合や,一般骨折の中にも既往症などが影響して不幸にも骨折の治癒が進まない場合があり,遷延治癒や骨癒合不全という偽関節状態になることがあります。また,骨癒合の過程で曲がったり捻れたりなど,変形治癒という状態になることがあります。さらに,開放骨折後や手術侵襲によって骨折部に感染症を生じると,骨折部は治らず感染性偽関節という状態になり,患者さんの日常生活動作が大きく制限を受ける状態となります。こういった骨癒合不全,変形治癒,骨髄炎の治療は専門的な治療が必要であり,通常の骨折治療においては経験豊富な病院であっても,対応困難なことが少なくありません。これらのような,外傷により長期間の治療を受けている患者さんの,早期社会復帰を目指した治療を当科では行っていきます。治療の過程で軟部組織欠損が生じる場合は,形成外科の先生と協力して治療にあたる場合もあります。
転移性骨腫瘍
内臓などが原発の悪性腫瘍(癌)や血液癌(悪性リンパ腫など)は,四肢長管骨や骨盤や脊椎に骨病変(骨転移)を生じることがあります。腫瘍組織そのもの,もしくはし腫瘍により骨強度が低下した場合に疼痛を生じ,外傷なく骨折(病的骨折)することもあります。四肢長管骨の骨転移により病的骨折を起こすと,元疾患によっては骨癒合しにくいことも多く,骨折に対する骨接合術や,腫瘍用インプラントを用いた治療などを検討する必要があります。病的骨折した状態であれば,患者さんの日常生活の制限の程度(パフォーマンスステータス)が大きく低下するため,元疾患の治療が制限されてしまいます。われわれは,骨盤外傷や四肢長管骨の骨折治療の知識を生かして,そういった病的骨折・切迫骨折に対する治療を積極的に行い,患者さんが元疾患の治療に専念できるような治療を行なっていきます。治療の過程で当科の骨・軟部腫瘍クリニックや脊椎クリニック,または放射線治療科と協力して,集学的に治療を行なうことも検討します。
以上のような難治・病的骨折の治療に悩むことがあれば,まずはご相談ください。