専門クリニックのご案内

小児整形外科センター

京都府立医科大学附属病院 小児整形外科センターは2013年に設置され,大学病院においては全国的に珍しい小児の運動器疾患への医療を提供しており,京都府内のこども約30万人の運動器医療における一翼を担っています。
公共政策のうち最も費用対効果が高いのはこどもの教育と健康への投資であるとされており,特にこどもの運動器の機能回復に尽くすことが我々の使命です。
小児科を中心とした診療科や整形外科内でのシームレスな協力体制の元,外傷や麻痺性疾患など頻度の高い疾患から先天性疾患などの稀少疾患まで幅広く扱い,本人,家族とともに成長に合わせてこどもが本来持っている治る力を引き出すような治療を追求しています。
こどもの整形外科における診断や治療法は現代では日進月歩であり,古くからある方法を引き継ぎつつも常に国内外から最新の情報を取り入れつつ,現時点での最善の小児整形外科医療をこどもたちに提供できるよう日々改善を重ねております。

代表的疾患

発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)

生まれつき股関節の形成が不十分,緩いなどの素因に乳児期の生育環境などの要素が加わって股関節が脱臼する疾患です.1970年代の育児方法の啓蒙により発生率は1000人に1-3人と激減していましたが近年では歩行開始後に発見される例も見られ問題になっています。
乳児期に股関節の開きが悪いこと,皺の左右差があることや脚の長さが違う事に気づかれて受診されることが多いです。

・リスク因子,予防法
向き癖がある,血縁者の股関節疾患,女児,骨盤位分娩(逆子),寒い時期に生まれた,などがリスク因子とされており,下肢の動きを自由にさせてあげること,首が据われば正面抱きとして膝と股関節を曲げたM字としてあげること,向き癖があればタオルなどの傾斜を利用して矯正することで悪化が予防できます。

・参考資料 パンフレット(乳児股関節検診保護者向け一次健診医向け二次検診医向け

・治療法 Rb法(3-6か月)
重度でなければ3-6か月の間は主にリーメンビューゲル(Rb)装具を使って整復し,緩めてゆきつつ約3か月の装着を行っています.装着後1-2週間以内に股関節周囲の腫れを伴って整復されることが多く,80%近くは整復できます.合併症の予防のため機嫌が悪いときには一旦外すなど無理をしないようにしています。

Rb装具装着し,整復が得られました

・治療法 牽引療法(7か月-2才)
Rb法で整復位が得られない場合や7か月を越えて診断された場合は入院していただいた上で牽引療法による整復を行います。
牽引は通常6週間行い,最後に全身麻酔をかけて股関節造影と最も股関節が安定する肢位でのギプス固定を行います.ギプス除去後にぶかぶか装具,ホフマンダイムラー装具と2種類の装具を装着しつつ少しずつ股関節を動かしてゆきます.入院期間短縮のため牽引療法の前半を貸し出した牽引装置を用いて自宅で行っていただくHome traction法も行っています。

開排牽引を行っています

股関節造影

整復後のギプス固定

装具を用いて動かしてゆきます

・治療法 観血的整復術
2歳を大きく越えて診断された場合や上記保存療法で整復が困難な場合は手術で脱臼を整復します。岡山大学ではじめられた広範囲展開法を用います。

・整復後の補正手術
整復は得られたものの骨盤側の成長が悪く大腿骨頭の屋根の形成が不十分な場合があります。成長を待機しますが成長終了後に遺残することが予想される場合は,成人期に手術を行うより身体的,社会的に影響が少ない6歳前後で骨盤骨切り術を行って将来的な不安のない股関節を形成します。

ソルター骨盤骨切り術により被覆が改善しました。

先天性内反足

生まれたときに足関節から足部までが内側にねじれるように硬く変形し,手で戻そうとしても戻せない疾患です。約1000人に1人の割合で発生し男児に多いとされています。容易に正常な形に戻せて背屈が容易にできる内反位足とは区別します。

生下時の内反足

・治療法
世界的に主流のPonseti法で変形の矯正を行っています.1週間おきにゆっくりとギプスで矯正し,その後アキレス腱を切る手術を行います。術後のギプス終了後は歩行開始までは終日,歩行開始から就学前くらいまでは夜間を中心に装具を用いて矯正を維持します。この方法が広まってから侵襲の大きな矯正手術が激減しました.矯正が不十分,歩き方に問題がある,もしくは再発傾向がある場合は,腱を移行,延長する手術や骨の並びを大きく矯正する手術が必要になることがあります。

ギプスによる矯正と固定

主に夜間に用いるFoot abduction brace, デニスブラウン装具

筋性斜頚

首筋に浮き出る胸鎖乳突筋が硬くなり短縮することで頭蓋骨が引っ張られることでおこる疾患です。1000人に2-3人で発生し,男女差はないと言われています。典型的には生後1か月くらいに頚部にしこりを触れますが徐々にしこりは目立たなくなってゆきます。

胸鎖乳突筋が硬く突っ張ります

・治療法
向き癖の矯正などにより約90%で自然治癒が期待できますが,頭部の傾き,首の動きの制限や顔のゆがみが残ってしまう場合は術後のリハビリが可能になってくる3-5歳で手術を行っています。固く機能しなくなった筋肉の下端を一部切除し,とりはずしのできる矯正位保持装具を術後1か月程度用いてリハビリテーション治療を行い,首の動きの改善と再発の予防を行います。
年長児や成人になって診断された方も胸鎖乳突筋の上下で手術を行うと肩こりや頭痛が改善されることが多く,積極的に手術治療を行っています。

術後用いる装具

4週間くらいの装着です

頭部の傾きは軽快しました

ペルテス病

原因は不明ですが,大腿骨の骨頭部分の血流が悪くなり骨が壊死しつぶれてしまう疾患です.成人では再生が起こりませんがこどもでは骨頭の再生が2年前後で見られますが変形しないように再生させることが重要になります。
年齢は4-9歳くらいに多く,活発な男児に発症することが多く,90%が片側例です。股関節,大腿部,膝部分の疼痛を訴えることや,かばって歩くだけの場合もあり診断が遅れることもあります.世界的にcontainment療法と呼ばれる壊死した骨頭を骨盤の寛骨臼の中に入れて元の球形を回復させる方法がとられており,国内では保存療法が選択されることが多いです。

壊死した骨頭は数年の経過で修復されてゆきます。

・治療法 NPS装具療法
平均1-2年間の長期間の治療期間が必要です.壊死した骨頭がつぶれないように独自に開発した歩行可能な装具(NPS装具)を使用して治療を行っています。
まず入院していただき炎症が改善し関節の動きが改善するよう牽引を行いつつ装具を作成,完成後は装着下の歩行訓練,日常生活の訓練を行います。装具を付けたままでも座ったり階段を上ったりできます。施設に長期間入所してではなく通院で治療でき,通学も可能でほぼ通常の学校生活が送れることが特徴です。当科の成績ではNPS装具療法により約80%が将来的に問題の無い股関節へと回復しています。

NPS装具 装着したまま歩行,階段昇降,座ることが可能です。

・治療法 手術療法
初診時に病変が広かったり,変形が強かったり年齢が高い場合は大腿骨頭内反回転骨切りを行った上で装具もしくは松葉杖を用いた免荷療法を行っています。

高年齢発症のため,内反回転骨切り術を行いました

大腿骨頭すべり症

肥満気味,もしくはスポーツなどで激しく使うことにより大腿骨頭部分が成長する軟骨部分で後方にずれてしまう疾患です。小学校高学年から中学生くらいに起こることが多く,ホルモン異常に伴うこともあり関連は指摘されていますがはっきりとした原因は分かっていません。軽度の股関節痛が出たり引いたりするタイプや急激に痛くなり歩けなくなる場合など発症の仕方も様々です。

・治療法
何らかの手術が必要になります。中等度までのすべりに対しては専用スクリュー1本での固定を行っています.術後1-2か月間は脚をつけないよう2本松葉杖か装具を用いて移動します。
受診時に歩行ができないくらいの痛みがある場合や,スクリュー固定が出来ないくらいの高度のすべりがあれば,関節を切開してずれた大腿骨頭を血流評価しつつ可能な範囲で戻し固定する手術を行っています。 合併症として血流障害による骨頭壊死と軟骨融解があり,残念ながら起こってしまった場合は追加手術や長期間脚に体重をかけずに回復を待機する治療が必要です。

スクリュー1本での固定を両側に行いました

不安定なすべり症に対して関節切開して血流を評価しながら固定しました。

扁平足

歩き初めにはまだ関節も柔らかく体重を支える足の筋肉の発達も不十分なため幼児期(外反)扁平足が目立つことがあります。大多数は成長や筋肉の発達によって自然に改善が見込めますが,もとの関節の柔らかさが高く改善がない場合や足が疲れて痛がったりする場合はハイカットの靴や中敷きを作成します。

靴型装具

・先天性垂直距骨
扁平足では関節は柔らかいことが多いのですが,生まれたときから土踏まずの部分が盛り上がって舟底変形と呼ばれる変形を呈し,容易に戻らず固い変形を呈することが特徴的です.全身性疾患に伴うものと足部変形のみの場合があります。先天性内反足のPonseti法と逆方向のギプス矯正をできるだけ行ったうえで関節の一時固定と腱延長を組み合わせた手術を行い,装具療法で維持する治療を行っています。

先天性垂直距骨の舟底足変形と矯正ギプス固定

四肢先天異常・成長障害による変形

特に下肢は体重がかかる関節のため長さが違う場合や変形があると周囲の関節や脊椎の変形につながり,将来的に症状が出てくる場合があるため治療の必要があります。長さの違いがある場合は患側が長い(片側肥大,血管腫など)のか,短い(骨端線損傷,各種形成不全など)のかが重要であり,診断を確定させた上で当科では原則として患側(悪い方)を治療することとしています。

・治療法
1-2cmまでの差は靴に補高を行うことによって補正が出来ます。定期的に変形の状態をレントゲンで確認してゆきます。
2-3cmを越える脚の長さの差や,進行する変形に対しては手術をお勧めしています。外傷や感染後で成長軟骨の一部が骨に置き換わっている場合は,骨髄鏡を用いて骨を切除し成長再開を促す低侵襲な治療を導入しています。患側が長い場合は骨端抑制術といって関節近くの成長する軟骨部分に小さいスクリューやプレートをいれて抑制,矯正を行います。数か月から数年の経過で矯正が得られれば抜去します。
複雑な変形や大きな差がある場合は創外固定器を用いたイリザロフ法に準じた緩徐矯正をおこなっています。アプリやコンピューターで矯正をプログラムできる固定器を用いて,あらゆる変形に対応して正確な矯正が可能です.管理方法が習得できれば固定器装着のまま外来通院していただき,通学しながら抜去まで管理を行ってゆきます。長い装着期間とピン感染などの合併症に対して対応できるよう指導を行い,出来るだけ快適な治療生活ができるようサポートしてゆきます。
部位,年齢や変形の強さによってこれらの治療を組み合わせて成長終了時に機能的な下肢が獲得できることを目指します。

プレートとスクリュー,スクリューのみを用いた成長抑制

著しいO脚に対して片側の抑制を行い改善中です。

下肢の形成不全に対して創外固定を用いた矯正を行いました。

二分脊椎

胎児期の脊髄や脊椎の癒合不全が残ってしまい,運動や知覚,排尿や排便機能などの神経機能に程度の差はありますが異常を来す疾患です。小児科,脳神経外科,泌尿器科,整形外科やリハビリテーション科などが関わり治療をすすめます。整形外科的には脊椎,股関節や足部が麻痺による筋力バランス不良などによって生じた変形に対し,残った機能をできるだけ活用できるようにしています。

・治療法
短下肢装具や歩行訓練用の骨盤帯付き長下肢装具を用いて日常生活やリハビリテーション治療が効果的に行えるよう支援します。
変形が強く装具が装着できなくなった場合や,脱臼により股関節の安定性が不良な場合は手術療法を行っています。

短下肢装具と骨盤帯付き長下肢装具

両麻痺性股関節脱臼に対して骨切り術を順次両側に行いました。

脳性麻痺などの神経疾患

脳性麻痺とは発生や発達の途中で脳に何らかの非進行性の異常が発生し,その影響により運動や姿勢の異常をいい,2歳頃までに発現することが多いとされています。程度やタイプは様々であるため,状況に応じて本人の能力の改善や保護者の負担が軽減するよう対応や治療を考えます。

・治療法
通院でのリハビリテーション治療は当院では困難なため,選択肢が多いわけではありませんが自宅近隣でのリハビリテーション通院を紹介しています。
多くの場合リハビリテーション治療を中心としつつボツリヌス療法,装具療法を組み合わせて行い,骨,関節の硬さが強い場合などに整形外科的選択的痙性コントロール手術や各種骨切り術を行っています。

股関節に対し硬く緊張している部分のみを切離,延長しました。

環軸椎回旋位固定

軽い外傷,咽頭周囲の炎症,手術などをきっかけとして第1,第2頚椎の間で回旋が起こり疼痛や緊張も相まって固定してしまう疾患です。コマドリ肢位と言われる頚部を曲げつつ回旋させた形で頚が固定され痛みのため動かせなくなることが多くみられます。まれですが頭頚部の病変が原因となっていることがあります。疾患そのものや治療があまり知られておらず,診断や治療が遅れると治療が困難になります。

・治療法
発症から1週間以内であればカラー固定や鎮痛剤の内服などで改善することが多く,容易に治癒しますが,1か月以上経過した場合は第2頚椎の関節面が変形してしまっていることが多く入院による牽引治療が必要となります。頚部がまっすぐになり疼痛無く対称に動かせるようになるまで牽引を行い,整復されれば骨の変形が改善されるまでは装具による維持を行います。

脊柱側弯症

脊椎クリニックで診療しています。

手指,足趾の先天性疾患

手の外科クリニックで診療しています。

小児の骨軟部腫瘍

腫瘍クリニックで診療しています。