病院の紹介
京都第一赤十字病院は昭和9年(1934年)11月に設立され,実稼働病床598床(許可病床652床),医師数248名(初期研修医・専攻医77名を含む),33診療科+3診療部を有し,京都府立関連病院の中でも京都第2赤十字病院と並ぶ大規模総合病院として臨床ならびに教育研修の拠点病院として機能しています。DPC特定病院群(高診療密度)病院(全国で140病院,京都では4病院)には京都では最も早く承認されています。
病院は市内南部に位置し,伏見区,東山区,南区,国道24号線沿いの京都府南部地域の患者さんを中心に医療を行っています。病院の掲げる理念として京都府南部地域における最高の基幹病院になることを掲げています。また日本赤十字社の一員として,病院における通常医療だけでなく災害救援活動を国内のみならず国際的にも行なっています。国内での大規模災害対応事例としては,記憶に残るところでは東北および熊本大震災へのDMAT派遣や,京都アニメーション放火殺人事件,京都祇園軽ワゴン車暴走事件での重症患者救急受け入れを行いました。
整形外科においては年間の手術症例数は1200例を超え年々増加の一途をたどっています。当院は外傷治療,人工関節などの関節外科,脊椎外科,透析関連疾患の4つの柱を中心に診療を行っています。
外傷治療では「Preventable Trauma Disability」を最小限にする目標とともに重度四肢外傷にも積極的に取り組み,「重度の外傷患者を職場復帰させる,いいかえれば納税者に戻す」を使命に治療に励んできました。
股関節疾患の治療は平成17年に今井亮から山添勝一へと引き継がれ,側方アプローチによる手術展開,骨セメントを用いたステム設置,同種骨を用いた人工股関節再置換症例への対応などに積極的に取り組んできました。その成績は,脱臼例や術後感染例を認めず非常に良好でした。現在は栗林(リハビリテーション科)副部長が中心となり伝統を引き継ぎながら,新たに前側方アプローチ下での関節置換術を行なっており術後早期から疼痛の少ない機能訓練が可能となっています。
脊椎外科は,平成15年に宮本達也から大澤部長へと引き継がれ,脊椎専用の顕微鏡(2001年),内視鏡(2002年),手術ナビゲーションシステム(2009年)の導入により低侵襲脊椎手術の時代へと発展しています。2010年からは経皮的内視鏡システムを導入し局所麻酔下での腰椎椎間板ヘルニア摘出術を開始しています(2013年同門会集談会にて報告)。現在,脊椎ナビゲーションシステムとしては術中に3D画像情報が取得可能なO-arm2を導入し高難度な脊椎手術に対応しています。また2022年には外視鏡システム(オリンパス ORBEYE)を導入しています。
京都第一赤十字病院公式ホームページ
2021年3月26日撮影 整形外科チーム
整形外科の特色
骨盤・寛骨臼骨折・多発外傷への取り組み
骨盤外傷を含む多発外傷は2つのPTD(preventable trauma deathおよびpreventable trauma disability)を避けることが重要と考えています。当院では救急科や放射線科と協同し,不安定型骨盤輪骨折に対し,MTP(massive transfusion protocol),外科的止血,パッキング,創外固定,TAE(transcatheter arterial embolization)およびREBOA(resuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta)などを駆使して救命にあたっています。また,早期に内固定へconversionすることにより,合併症や機能障害を減らす取り組みをおこなっています。
寛骨臼骨折手術も積極的に行っています。必要に応じて術前に動脈塞栓術を放射線科に依頼しており,術中に生じる大量出血に対しても放射線科による緊急TAEにより止血が可能です。したがって,より安全に手術を完遂できる環境が整っております。
骨盤輪・寛骨臼骨折に関しては積極的に当院へ転院いただき,手術を行えるようにしております。TAEが可能な施設に関してはその病院への出張手術も行っています。
骨軟部腫瘍への取り組み
骨軟部腫瘍に関しては,昨今増加の一途をたどっている転移性骨腫瘍に対する治療を積極的に行っており,病的骨折を生じる前に手術を施行するようにしております。また,化学療法を要しない原発悪性骨軟部腫瘍に関しても,手術を行っております。ただ,化学療法を要する可能性が高い疾患に関しては大学附属病院への紹介を行っています。また,大学附属病院での骨軟部腫瘍カンファレンスに参加し,診断や治療の標準化を図っています。
重度四肢外傷(外傷再建外科)への取り組み
当院は,3次救急に対応しヘリポートを有しているため京都の北部や大阪など広範囲から重症外傷の受け入れ要請があります。したがって当院の整形外科では一般の整形外科外傷のみではなく,より重症度が高い上腕切断や下腿開放骨折といった軟部組織損傷を伴う重度四肢外傷の治療を行っています。手外科・マイクロサージェリーなどの知識と技術を応用して,神経・血管損傷の修復や遊離皮弁などを駆使した軟部組織再建を積極的に実践しています。このような外傷再建外科治療を整形外科として一貫して行えることが当科の特徴です。
具体的には,上腕切断・前腕不全切断・手部挫滅損傷に対して血管吻合・神経縫合および神経移植さらに腱移行などにより上肢機能の再建を目指して複数回の手術を計画的に行います。また軟部組織欠損を伴う下腿開放骨折に対しては,適切な時期に遊離皮弁(広背筋皮弁など)による被覆を目指しています。さらに最も緊急度が高い外傷性膝窩動脈損傷に対しては,6時間以内の血行再建が必要なため躊躇なく手術室へ搬入してできる限り早期の血行再建を行なっています。
これまでは,日本における重度四肢外傷の標準的治療戦略(Japan strategy)を学びながら必要な知識と技術の習得を重ねて多くの症例を経験してきました。今後は,このような重度四肢外傷に対する標準的治療が実践できるエキスパート施設として若手医師の育成にも重点を置いて地域の治療レベル向上を目指しています.外傷再建外科チームの一員として,重症患者さんの治療に取り組みながら社会復帰まで見届けるといった成功体験と感動を共有して欲しいと考えます。この分野の責任の重さと必要性を体感してもらい共に戦える同士になってくれることを願っています。
透析脊椎症への取り組み
当院は全国において早くから透析治療を導入し,多くの透析患者を治療してきました。今井亮,宮本達也らを中心に透析関連運動器疾患の治療では数々の業績を残しています。特に宮本の提唱した破壊性脊椎関節症の病期分類が知られています。その伝統を引き継ぎ,最近では「今日の整形外科治療指針」(医学書院出版)において透析性脊椎症の項目を大澤が担当執筆しています。
透析患者の脊椎手術では術前に多くの合併症があり,その上に周術期合併症と術後短期での死亡例も散見されます。当院では透析患者の脊椎手術症例は全例集中治療室にて術後管理を行っており,術後合併症を予防する取り組みを行ってきました。2003年7月から2021年12月にかけて脊椎疾患に対して当院で手術を施行した透析患者は135例です。初回手術までの透析期間は平均20年(2年~40年)と長期透析症例がほとんどです。周術期合併症は全手術症例のうち11件(10%)に発生しています。再手術率は腰椎高位で高い傾向であり初回除圧術後に再手術として固定術を要した症例を多く認めています。透析脊椎症の手術治療成績は依然として満足のいくものではありませんが,新しい手術方法を取り入れながら成績向上に取り組んでいます。
化膿性脊椎炎への取り組み
化膿性脊椎炎は他科疾患を合併したcompromised hostの増加や,発症年齢の高齢化,発症数の増加が近年報告されており,本疾患の治療におけるリスクは高まっています。手術を要するあるいは専門外であるとの理由で当院へ紹介されてくる脊椎炎例に対して,特定の医師が手術中や外来中に対応することは困難であり,チームとしてルーチンに対応する体制を構築する必要性がありました。当院では原因菌の同定や抗菌薬の選択においては感染制御部にコンサルトし,CTガイド下生検・ドレナージにおいては放射線科の協力体制のもとに脊椎炎の治療を行ってきました。2007年4月からの11年間で,当院で治療を行った脊椎炎は117例でした。当院での原因菌検出率は63%であり,そのうちグラム陽性球菌が52例と最多となっています。原因菌が不明でも治療経過には大きな影響はありませんでした。手術に至った症例は25例(21%)であり,保存療法で治癒に至る例を多く認めました。治療長期化の要因として原因菌がMRSAである事が最も大きな要因でした。本結果を受けて現在はcompromised hostに発症したMRSAによる脊椎炎は,抗MRSA薬の使用方法の見直しやハイリスク症例にも併用可能な低侵襲観血的治療(MIST)を早期に行う取り組みを始めています。これらの取り組みについては,第85回日本整形外科学会(2012年大澤)をはじめとして,第92回日本感染症学会(2018年森)や第48回日本脊椎脊髄病学会(2019年森)にて継続的に報告を行ってきました。これらの学術活動が評価され第48回日本脊椎脊髄病学会において優秀論文賞(森)28)を受賞しています。
腰椎椎間板ヘルニアに対する低侵襲治療
腰椎椎間板ヘルニアに対して,椎間板内酵素注入療法を2019年より開始しており,これまでに22例の施術を行い,改善率は86.4%を認めています。保存療法抵抗性の症例には完全内視鏡視下椎間板摘出術(FED)を京滋地域では最も早く平成22年より開始しています。FEDでは椎弓間(IL),経椎間孔(TF),後外側(PL)のどの進入法にも対応しており。TF進入法では局所麻酔下でのヘルニア摘出術も行なっています。またTF進入が困難な椎間孔狭小例では椎間孔拡大形成(foraminoplasty)を併用した摘出も行なっています。